プロローグ
- osamu N

- May 7
- 2 min read
Updated: May 17

15年前、和歌山のこの場所に店を構えたとき、私の心には希望しかなかった。
大学で日本文学を専攻し、放浪する「道々の人達」に思いを馳せていた私が、食の世界で見つけた「居場所」。
スペイン・バスクの美食に魅せられ、「野菜ソムリエ」という看板を掲げ、 華やかなメニューを並べていたあの頃。
しかし、現実は残酷でした。
賑わう店内、響く笑い声。
一見すれば「成功」していたのかもしれません。 けれど、私の心は削られていきました。
自分が本当に届けたい「素材の真価」と、 巷に溢れる「安価な消費」としての食事とのギャップ。 そして、自身の技術が、素材の生命力に追いついていないという、圧倒的な無力感。
まるで、霧の深い夜の海で、羅針盤を失ったような感覚でした。
私は、自分が信じた「美食」という戦場で、一度は完全に敗北していたのです。
なぜ、かつての私は「野菜ソムリエ」という肩書きに縋らざるを得なかったのか。 そして、なぜ今、それを脱ぎ捨てることができたのか。
その「負け戦」の背景には、和歌山という土地で店を続けることの、 理想と現実の激しい衝突がありました。
次回、その闇に一筋の光を差してくれた「ある出会い」についてお話しします。


